曇り空の下で今日も彼らを見つめて

ちょっとした備忘録。

月9シャーロックはパクリ!?原作やBBC版と徹底比較!放送前編

7月24日、10月よりスタートするフジテレビの月9ドラマがシャーロックであると発表され、BBCSHERLOCK(以下BBC版)のリメイクではないかと話題になりました。その後、公式からリメイクではないとの発表があり、ツイッターでは放送前であるにも関わらずBBC版のパクリではないかと炎上しました。


しかし、ホームズものには様々なドラマがありますし、日本にもmiss sherlock(以下ミスシャーロック)という現代日本が舞台でホームズもワトスンも女性のドラマがあります。何故、月9シャーロックはここまで批判されているのでしょうか。
原作、BBC版、月9版を冷静に比較しながら見ていきましょう。

 

 

 

次のフジ月9はシャーロック

簡単にご紹介を。

ディーン・フジオカさんが初の月9で初主演! 

世界一有名な名探偵“シャーロック”に!

相棒“ワトソン”を演じるのは月9初出演の岩田剛典さん!

顔面最強、内面最狂!?のバディによる スリリングなミステリーエンターテインメント誕生!

(https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.html  より)*1

 らしいです(7月24日時点)。

9月2日には原作に書かれていないアントールドストーリーズ(語られざる事件のこと)の映像化であるとあかされました。

ついでに言うと、シャーロックの名前は誉 獅子雄、ワトソンの名前は若宮 潤一、レストレード警部は江藤 礼二というようです。

 

BBCSHERLOCKって何?

勿論、よくご存じの方も多いと思いますので、そのような方々は飛ばしていただいても構いません。

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SHERLOCKコナン・ドイルの原作を大胆にアレンジし、見事にホームズを現代のロンドンに蘇らせた、2010年~放送の本場イギリスによる人気ドラマです。
コンサルタント探偵」であるシャーロックがスマートフォンやインターネットといった最新機器を扱い、馬車ではなくタクシーに乗る様子は、一見ホームズのイメージとはかけ離れて見えるかもしれません。しかし、お馴染みのベイカー街221Bを拠点に緻密な推理で事件を解決していく様子は、まさに蘇ったホームズそのものです。スタイリッシュで刺激的、残酷で非常識な新しい21世紀のホームズ物語として世界中から人気を集めました。
世界180カ国以上で放送されたこのドラマはBBCのドラマ史上最も外貨を稼いだとも言われ、英国アカデミー賞エミー賞など様々な賞を受賞しています。

主人公シャーロックを演じるのは「スター・トレック イントゥーダークネス」でジョンハリソンを演じ「ドクターストレンジ」で主演を務めたベネディクト・カンバーバッチ。友人のジョン(ワトスン)は「ホビット」で主演を務め「ブラックパンサー」でエヴェレットロスを演じたマーティン・フリーマンが演じています。二人はこのドラマの出演をきっかけに大ブレイクしました。

勿論、すごいのは俳優だけではありません。脚本、音楽、演出、カメラワークなどなどとても優れたドラマです。特に、脚本は「制作者は気の狂ったシャーロキアン」と原作ファンが引くほど賢く、小ネタかつ悪ふざけ(誉め言葉)に満ちた出来に仕上がりました。

爽快感を感じる程テンポが速く、緻密で華やか、そして何よりも面白いこのドラマ。まだ見たことがない人は、是非、観てみてください!!

 

リメイクじゃないの?

月9版はBBC版のリメイクではないようです。

「『シャーロック』は『SHERLOCK』のリメイクではありません。原作は小説の『シャーロック・ホームズ』シリーズであり、これを基に令和の東京を舞台にストーリーが展開します」

(https://www.j-cast.com/2019/07/24363431.htmlより)*2

 とのことです。

ただ、些細なことですが、なぜシャーロック・ホームズに『』をつけたのかが気になりますね。というのも、シャーロック・ホームズという本はありませんので。

 

何故パクりと言われるのか

それでは、本題に入っていきます。

そもそも、パクりだ!と言われてもBBC版をよく知らない方は何故そこまでファンが怒っているのか分からないと思います。ツイッターでも「そもそもBBC版だって原作のパロディでしょ?」「ホームズはパブリックドメイン」「現代版はBBC版以外にもエレメンタリーやミスシャーロックがあるのに」「過剰反応しすぎ」という意見も多く見受けられました。ここでは、何故月9版がパクりだと言われてしまうのか、ネットで見た意見についても解説していきます。

現代化ってパクりじゃない?

結論から言います。
何の問題もないと思います。
現代米国ワトスン女体化のエレメンタリー、そして現代日本ホームズもワトスンも女体化のミスシャーロックなどホームズものでBBCに許可をとっていない現代化ものは勿論あります。確かに、現代化したものを作っていて過去の現代版作品の言及がないのはちょっと怪しくも思えますが、これだけでパクりとは言えないのではと思います。

今まで日本の民放でBBC版の劣化版パクリドラマが放送されたことがあるので、ファンの方々も敏感になっているのでしょう。私も思わずやめてくれと叫んでしまいました笑

題名とロゴが同じ⁉

 これは結構な問題点です。


まずは、題名について。
「なんでシャーロックの話にシャーロックって題名を付けたらいけないの?」というのは多くの人が思うことだと思います。しかし、シャーロックという題名を避けるべきなのには理由があります。この話はBBC版以外のホームズ物も好きな人のほとんどには分かる話だと思いますが、シャーロック・ホームズという人はあくまでもホームズであって、シャーロックでは違和感しかないのです。というのも、ホームズ物語が出版されてから100年以上、シャーロック・ホームズという存在はホームズと呼ばれてきました。それなのにあえて、あのBBC版はSHERLOCKと言う題名をつけたのです、ホームズを完全に現代ロンドンに蘇らせるために。だって、今のロンドンでは19世紀とは違い、姓より名前で呼ぶことの方が多いのですから。
こうしてBBC版がシャーロック呼びをしたとき世界中のシャーロキアンは驚きましたが、ドラマの人気が高まるにつれ、シャーロック呼びは少しずつ浸透していきました。このことから分かるように、BBC版のSHERLOCKという題名はオリジナリティあふれる革新的なものだったのです。だからこそかつてからの原作ファンとしては「シャーロック」はBBC版の固有名詞のようなものだと認識しているためにどうしても違和感が拭えないし、その独自性も分からず題名を盗用するのはBBCの翻案でありパクリであると言えるのです。

 

次にロゴについて。
これは本当にBBCに訴えられないか心配になったのですが、本当にそっくりなのです。

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↑上がBBC版、下が月9版です。

この太ゴシックが厳密には違うフォントなのですが、一見似たようにみえます。またTwitterであえてこのフォントの「SHERLOCK」に「シャーロック」と上から被せているのが悪趣味に感じられて嫌悪感が凄まじいというようなことをおっしゃっていた方がおりましたが、まさにその通りだと思います。

ありえない、とお思いかもしれませんが、今でも公式サイトで見ることができます。ただ、このロゴは新しいポスターなどからは消されているようです。本当は公式サイトも変えないと不安なのですがね......。ともかく、炎上したからと言って、こっそり変えるのは良くないと思いますね。むしろ悪質に感じます。そもそも、私は発表してすぐのサイトをスクショしてプリントアウトもしてしまっていますし、潔く変更について説明したらよいのに、と思いますね。

↓ポスター右下に注目

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【追記】9/26 公式サイトがリニューアルし、BBC版もどきロゴが消えました。パクリと認めたということでしょうか?

犯罪コンサルタントって何がダメなの?

初期の月9版の公式サイトでは、シャーロックのキャラ説明に「フリーランスの犯罪コンサルタント"シャーロック"をディーンフジオカさんが演じます。」と書いてありました。何故、これが批難されているのでしょうか。
そもそも、これの元ネタはconsulting detectiveだと思われます。この言葉はホームズの職業として原作から使われていましたが、今まで日本語では諮問探偵などと訳されていました。しかし、BBC版ではコンサルタント探偵と訳しており、コンサルタントとという言葉を使ってしまうとBBC版を思い出すというのは、確かにありそうだと思います。

ただ、これだけではパクりとは言えません。それでは、何がいけないのでしょう?
それは、犯罪コンサルタントという呼称がホームズの宿敵モリアーティの職業だからです。モリアーティという犯罪者は、BBC版で「コンサルタント犯罪者」、アメリカの「エレメンタリー」というドラマでは今回の月9版とまったく同じ「犯罪コンサルタント」と呼ばれていました。こうしてみていくと、月9版のシャーロックは犯罪者設定のようにも考えられます。個人的には犯罪者ホームズも見てみたいと思いますが、まあどうせ調べが足りなかっただけなのでしょう、これもこっそり変更されていました。

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 ↑上が発表当時のもの。下が変更後のもの。
これも、いつの間にか変更されていたのですが、これは新潮ので指摘されたからですかね......。こちらとしては、改善したことを拡散しにくいですし、ちゃんと伝えていただきたいのですが。

シャーロックの服装もそっくり!?

これについては、特に驚きました。
というのも、これが発表されたのは炎上した後だというのに、BBC版に寄せてきたからです。もはや、呆れて批判する気も出ないですね笑

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↑左BBC版、右月9版。

せっかくなので、似た背景と位置(左シャーロック、右ジョン・ワトスン)の写真を持ってきてみました。どちらのシャーロックも黒いロングコートにブルーのマフラーですね。また、この写真の恰好ではないのですが、BBC版のジョンも似たようなジャケットと白セーターを着ていました。

ちなみに、あの格好を真似るということは、シャーロックとジョンの恰好が対比になっているというBBC版のアイデアを盗用しています。BBC版において、シャーロックのコートはフロックコートの現代版みたいなクラシカルでこざっぱりとしたものになっていました。着る服は基本的にダークカラーや抑えた色味で統一され、現代的な服装に置き換えながらも原作に描かれてきたモノトーンなホームズのイメージを崩さないよう工夫されています。他にも、上品ながらもベルスタッフ(特注コート)やスペンサーハート(スーツ)、ドルガバ(シャツ)にポール・スミス(手袋とマフラー)、ロータリー(時計)など、ブランド物のオンパレードでした。対するジョンはアウトドア系でミリタリっぽい上着が多く、シャーロックと違ってバリエーションが豊富です。ジーンズはユニクロで、元軍医のイギリス人らしく庶民的で実用性を重視した格好になっています。セーターやチェック、ボーダーなどシャーロックの着ないようなジョンの服は原作とはあまり関係がなく、お互いの対比を徹底しているように思えました。このアイデアBBC版オリジナルのものです。

このように、この衣装に関しては間違いなくパクりだといえるでしょう。

冒険者(???)の生き様って......

 ホームズとワトスンは冒険者なの?ということは一旦おいておきましょう。

それにしても、原作で描いているのって一応事件についてがメインだと思うんですよ。確かに彼らの友情や生き方、キャラクターも人気が出た大事なファクターなのですが、やっぱり主役は事件なのです。しかし、BBC版はシャーロックの成長・生き様に焦点を当てた作品を作りました。だからこその題名 “SHERLOCK” なのだと思います。

ここで言いたいのは、なんで題名シャーロックなの(別に“シャーロックとワトソンの冒険”でもいいのに何故シャーロックについてのみ言及されるのだ?)ということと、生き様を第一に描きだしたらそれはBBC版と同じ発想ではないか、ということです。

君はサリー・ドノバン巡査部長かい?

今回の月9版ではシャーロックのことは気に食わない邪魔な存在として見ている女性巡査がいるようなのですが、勿論原作にはいません。オリキャラですね。ただ、BBC版にはサリーという女性巡査がレストレード警部の部下にいて、役どころとしてはちょっと似ていそうです。 このことについては次の原作との比較「グレグスンの女体化と降格」でも扱っています。

 

原作に沿っているの?

ここまで、BBC版と月9版についてお話してきました。しかし、月9版の原作はコナン・ドイルによる聖典(正典)でしたね。様々なホームズ物の中で、グラナダ版やBBC版などの有名作品は原作ネタやシャーロキアーナのネタが満載です。月9版はホームズに詳しいシャーロキアンが関わっているという情報はありませんが、果たして月9版はどこまで原作(以下正典表記)に沿っているのでしょうか。

 シャーロックとワトソン?

先ほど題名についてお話していた時に、シャーロックという呼び方は正典を原作とする場合に相応しくないとお話しました。それだけではなく、今回の二人の呼び方にはさらに不安な点があります。というのも、シャーロックと「ワトソン」とサイトに書かれていたことです。何故、ワトソンがダメなのか。きっと彼らの名前をご存じの方はすでに違和感を覚えているかもしれませんが......

姓      名

シャーロック・ホームズ

ジョン   ・ワトスン

分かりましたか?シャーロックが名前なのに対し、ワトソンって姓なんです!!!姓なんですよ!!!!!

確かに、BBC版ではシャーロックという呼び方を採用はしていましたが、同様にワトスンもジョンと呼ばれていたのです。月9版は何故、このような一貫性のない呼び方になってしまったのか不思議ですね。このことは発表当初から話題になっており、後から彼らに日本風の名があることが公表されました。公式サイトの書き方からも後付けっぽさがすごく、騒がれたため方向転換でもしたのでしょうか......。

外面最強、内面最狂!?

すごく面倒なことをいうとホームズもワトスンも公式にイケメンなんて表記ないので、それを売りにされても反応に困りますし、彼らの良いところはそこじゃないっていうのが本音です。それに、正典のホームズもワトスンも狂ってはいませんし、内面最狂は正典よりBBC版の方が近い気がします。どちらにせよ、この売り文句はホームズ物の良さを1ミリも表してないように思います。

シャーロックの設定が酷い

先ほど、シャーロックの設定で犯罪コンサルタントはおかしいと言う話をしました。しかし、おかしいのはこれだけではありません。
 
 “シャーロック”は、幼い頃から、人間が犯罪者へと変貌する心理や、人間の原罪というものに強く魅せられ、学生時代からさまざまな不可解な事件や事象の謎を解いてきた“天才”である一方、一歩間違えば自身も犯罪者になりかねないという“犯罪衝動”を抱えた危険な男でもあります。事務所は持たず、警察や個々のクライアントから舞い込んでくる調査依頼の中から、自分が興味のあるものだけを請け負う自由気ままなタイプ。(https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより)*3
 
実は、正典ホームズはここに書かれた心理と原罪どちらにも全く興味が無いのです。犯罪衝動もなく、むしろ正典は正義感が強いキャラクターですし(BBC版は本人に犯罪衝動はないものの周りからは犯罪を起こしそうと思われています)。221Bに事務所のようなものもあります。

ホームズはきまって居間を専用させてくれというので、私はいつも寝室へ退却することにしていた。これについては気の毒だといつも彼はあやまっていた。
「僕はこの部屋を仕事用に使わなければならないのでね。あれはみんな僕のところへ頼みにくる客なんだ」
(『緋色の研究』p31)*4

 

とも言っていましたね。ホームズは自分の下宿を探偵事務所のように使っています。

そしてワトソンの設定も酷い

後にバディを組む都内の病院に勤務する精神科医で、冷静かつスマートな常識人。端から見ると善良な人物に映るが、実際は傷つきやすいハートの持ち主で、幼い頃から“良い子”の仮面をかぶり、自信の無さの裏返しから、常に虚栄心と煩悩と葛藤するナイーブな性格の男です。ことになる“シャーロック”とはある事件を通じて知り合い、初めこそ「横柄で失礼なヤツだ」とネガティブな印象を持つのですが、心の壁をお構いなしに越えてくるその人たらしの態度に次第に心地よさを感じるようになり、ついには同居生活を送ることに…。

 

そもそも、ワトスンは精神科医ではありませんし(軍医として従軍経験もあります)、椅子を振り上げたり、怒りにまかせて敵のところへ乗り込もうとする人間が冷静なわけがありません。ワトスンがスマートだった記憶はあまりありませんし、普通に善良な人間です。傷付きやすいハートの持ち主でナイーブなら、ホームズと暮らすことはできませんし、良い子の仮面とは正反対のところにいました。というのも、忘れられがちですが正典ワトスンは学校時代イジメのようなことをしていたとの記述があるからです。『海軍条約文書事件』の依頼人パーシイ・フェルプスと親しく交際していたとの記述がありましたが、当時神経質で臆病な頭の良い少年であった彼をワトスンたちはオタマジャクシと呼び「運動場で追いまわしては、棒切れで向こうずねをひっぱたいて面白がっていた」(『海軍条約文書事件』p312)*6ようです。また、自信のないキャラクターではなく自尊心もありますし、虚栄心も煩悩との葛藤もありません。女性好きですし、むしろ煩悩だらけですよね。って、原作と違いすぎませんか?個人的にこの設定はBBC版の方が近い気がします。

さらに、ここに書いてあるホームズの設定は人たらしです。このシャーロックはワトソンを騙すために演技でもしているんですかね......。人たらしのホームズとか『犯人は二人』で結婚詐欺してた時のしか思いつかないのです。

まさかのレストレードの設定も酷い

物語のキーマンの一人で、“シャーロック”に事件の捜査依頼をする警視庁刑事部捜査一課の警部、江藤礼二(えとう・れいじ※原作上、レストレード警部にあたるキャラクター)を佐々木蔵之介さんが演じることが決定しました。

『シャーロック』で佐々木さんが演じる江藤礼二は、警視庁刑事部捜査一課の警部。“シャーロック”とは、いつ頃から知り合いなのか、なぜ捜査に介入させるのかなど、その関係性は謎に包まれています。また、江藤自身は“シャーロック”の存在を公にしていないのですが、現場に呼ぶため警視庁の人間からも薄々気づかれています。ノンキャリ出身ながら比較的順調に出世してきたので自身を有能だと思い込んでいるのですが、サボり癖があり、あっけらかんとしていて詰めが甘く、捜査能力は決して高くありません。事件を持ち込んで物語が転がるきっかけを作りつつも、“シャーロック”の捜査を無自覚に邪魔したり、足手まといになったりするため、“シャーロック”にはバカにされたり、その言動に振り回されたりすることが多々あります。それでも関係性を続けているのは、ひとえに“シャーロック”の事件解決力を自分の手柄にするためですが、同時に、その天才的な観察眼に一目置いてはいて、どこか“シャーロック”のことは大切な存在であると思っている節もあるのです。(https://www.fujitv.co.jp/sherlock/news/news_01.htmlより)*7

 

正典のレストレード警部はヤードの中では優秀だとホームズも言っていましたし、さぼり癖もありません。むしろ敏捷で精力家ではあるのに、型にはまりすぎている人物です。また、シャーロックとワトソンをどこか温かく見守る兄貴分ってBBC版のままですよね。

 令和のオリンピックに向けて活気に沸く東京が舞台

『シャーロック』で描く事件の舞台は、オリンピック開催を翌年に控え、かつてない活気に沸く街・東京。東京は東西に長く伸び、ニューヨークやロンドン、パリなど、どんな世界の大都市よりも広い都市部分の面積を誇るだけに、地区ごとに全く違う顔を見せます。そんな東京で毎回起きる事件を通して、それぞれの町がオリンピック開催に向けて変わりゆく最新の様子も掘り下げていきます。

(https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより)*8

 

これに関しては私が気に食わないだけのような気もしますが、まずオリンピックとホームズって合わなさすぎるのですよ。ホームズは人混み嫌いでしょうし、そもそも東京五輪プロパガンダになぜイギリスのホームズが使われるのでしょうか。

また、霧の都ロンドンという雰囲気でもなさそうですが大丈夫なのでしょうか。今回は語られざる事件(作中に名前しか出てこない事件)を描くので、雰囲気も違う中でホームズに詳しい人もおらずにホームズらしさを出すのはなかなか難しいと思います。BBC版などの大作と比較されるのは免れませんし、是非とも頑張ってほしいところです。演技力、脚本、演出、カメラワークと様々な力が必要となりますので、大変だとは思いますが......。

しっかりした謎解き?数々の伏線?

「しっかりした謎解きと、犯罪者とのスリリングな対峙(たいじ)、そして痛快な解決劇。これらを満たすミステリードラマを制作したいと考えたときに、のちのすべてのミステリー小説・ドラマの元祖とも言える、世界で最も有名な『シャーロック・ホームズ』シリーズを、現代の日本に置き換えた作品を作るというストレートな考えに行き着きました。まだミステリーという概念がない頃に、読者を瞬時に惹きつける仕掛けと数々の伏線を散りばめ、強烈な性格ながら唯一無二の観察眼を持った主人公・ホームズが次々と謎を解き、読後には爽快感を残すというスタイルを完成させた、アーサー・コナン・ドイル氏による原作シリーズに敬意を払い、制作に当たります。

(https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより)*9

 

私、ホームズものでしっかりした謎解きも数々の伏線もあまりお目にかかった記憶がないのです、短編が多く推理小説の初期のものなので。

そもそも、「現代の日本に置き換えた作品を作るというストレートな考え」ってストレートですかね?それに読後の爽快感は正典全てに共通したものではなく、初期のBBC版の特徴に思えます。

「未知の世界」なんてないよ

今回、ディーン・フジオカさんと岩田剛典さんという見目麗しい2人の大人の男性が、まるで未知の世界を探索しているかのように、高揚感を感じながら共に謎に立ち向かう“冒険者の生き様”を映像化したいと考え、企画に至りました。

(https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより)*10

 

ホームズも『緋色の研究』で言ってましたね。「日の下に新しきものなし」(『緋色の研究』p52)*11と。

そもそも、ホームズは何も知らない世界に来てしまったら、いつもの観察眼があっても推理できないでしょう。

シャーロックの色気

今回の“シャーロック”は、これまでディーンさんが演じてこられた役柄の中でも、最も強烈で難解、そして色気のあるキャラクターになると思います。

(https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより)*12

 

すみません、これに関しては「やめろ!!!」としかコメントできないのです。

理由は下の章で述べます。

Shellyはラブソング

「“シャーロック”の知られざる一面をラブバラードで書き下ろしました。

さまざまな不可解な事件や謎を解いてきた“天才”ですが、一歩間違えば自身も犯罪者になりかねない、そんな“犯罪衝動”を抱えた危険な男。そんな男が、謎を追いかけ、真実を突き詰めていく中で、運命に翻弄(ほんろう)されるのと同じように、手が届きそうで届かない“Shelly”という運命の女神に出会ったとしたら…。そんな実際には描かれないアントールド・ストーリーをこの楽曲で表すことで、さらにドラマ『シャーロック』の魅力が、より立体的になると良いなと思って制作したので、是非聴いていただけるとうれしいです」

(https://www.fujitv.co.jp/sherlock/news/news_05.htmlより)*13

 

 

そもそも、語られざる事件 の意味貴方知ってます?と言う疑問はさておき、これは明らかに原作者コナン・ドイルの意図、世界に反していてます。

というのも、ホームズの心の底には女性不信があり、「元来僕は心から女性を賛美するものじゃない」(『恐怖の谷』p109)*14と話しているからです。ホームズは女性のことはワトスンの得意分野だとしていて、女性について話題にしても冷やかしたりけなしたりしますし、「あらゆる情緒、ことに愛情のごときは、冷静で的確、驚くばかり均斉のとれた彼の心性と、およそ相容れぬもの」で「訓練のゆき届いた推理家にとって、細心に整頓されたデリケートな心境のなかに、そうした闖入者を許すのはまぎれをおこさせるものであり、その精神成果のうえに、一抹の疑念を投ずることにもなる」(『ボヘミアの醜聞』p7,8)*15と考えていました。

しかし、そのホームズにしてもなお忘れがたき女性が一人だけあります。その女性こそがアイリーン・アドラーという「ボヘミアの醜聞」に出てきたあの女(ひと)でした。とはいってもアイリーン・アドラーに対し恋愛めいた感情を抱いているわけではありませんが、彼にとって女性はあの女一人しかいないのです。

『絹の家』『モリアーティ』の著者アンソニーホロヴィッツ氏は、このコナン・ドイル財団公認の二冊を書くに当たって、オリジナルの作家の世界に忠実であるために「十箇条のルール」を自ら課したそうです。その2条目には「ホームズの恋愛を描いてはならない」(『kotoba No.36』p16)*16というものがありました。他9つのルールも厳しいけれど大切なものばかりです。

このように、「事件解決の天才でありながら自らも犯罪衝動を抱えるミステリアスな男“シャーロック”が、実は、過去か未来かまたは現在進行形、人生のどこかのポイントにおいて、自分にとって「運命の女神」とも言える一人の女性“Shelly”を一途に思う、そんなピュアな経験をしたことがあったのではないか」(https://www.fujitv.co.jp/sherlock/news/news_05.htmlより)*17という、DEAN FUJIOKA本人による着眼点のもと書き下ろされたラブバラードはコナン・ドイルを裏切っているといえるでしょう。

グレグスンの女体化と降格

先ほどの「君はサリー・ドノバン巡査部長かい?」でお話しした箇所についてです。

 

『シャーロック』では、原作上の“グレグスン警部”にあたる小暮クミコ(こぐれ・くみこ)役を今注目の個性派女優、山田真歩さんが演じることが決定しました。

山田さんが今作で演じる小暮クミコは警視庁捜査一課の巡査。お調子者の上司、江藤警部(佐々木蔵之介)をうさんくさく感じながらも、江藤が唱える“迷”推理に鋭いツッコミを入れ、うまいこと方向転換しながら解決へ導く冷静沈着で優秀なキャラクター。事件現場に突如として現れる獅子雄(ディーン・フジオカ)のことは、気に食わない邪魔な存在として見ていますが、楽しそうに捜査する獅子雄、若宮(岩田剛典)の“顔面最強”バディに対し、次第に興味を持つようになっていきます。

(https://www.fujitv.co.jp/sherlock/news/news_04.htmlより)*18

 

 

というようにグレグスン警部にあたる人間を演じるようです。正典ではレストレード警部のライバルである男性の腕利き警部なトバヤス・グレグスンは、月9版において上司江藤警部(レストレード警部)にツッコミを入れ、彼らを邪魔な存在と思っている冷静沈着で優秀な女性巡査になっていました。しかし、正典のグレグスン警部はレストレード警部より学があり、社会的地位も高く、早く出世したのではないかと言われ、また、『赤い輪』ではホームズに対し、尊敬の念そして感謝を示しています。

まとめ

このように、今回のフジ月9ドラマは原作よりBBC版よりの可能性が現時点では高いといえます。

個人的にはBBCからリメイク権は取れないだろうから(米国の放送局が断られたことがあります)題名似たようなもの作ろうと思っていたのに、思った以上に叩かれて急いで勉強し直した感があると思いました。期待はしていないのでパクられた題名と乗っ取られたTwitterの #シャーロック タグ以外にあまり文句はありません、勿論まともなものを作っていただけるならですが。フジテレビの公式サイトには公式に意見を伝えることができます。私はここに書いたことを簡潔に3000字程にまとめて伝えました。少しでも改善されたら嬉しいです。

世界には様々なホームズ作品があり、本や漫画、ドラマに映画、演劇などなど、ひどいものから優れたものまで珠玉混淆です。今でこそ、BBC版も有名になり私もファンですが、始まる前は期待していないどころか完全なる失敗作だと思っていました。今回の月9版もホームズ作品の一つとして、どこまで良い作品になるのか見守っていきましょう。

参考文献

フジテレビ シャーロック 公式サイト (https://www.fujitv.co.jp/sherlock/)

J-CASTニュース 月9「シャーロック」はBBCのリメイク?フジテレビに聞いてみた 

(https://www.j-cast.com/2019/07/24363431.html)

『緋色の研究』延原謙 訳 新潮社 平成29年

シャーロック・ホームズの思い出』延原謙 訳 新潮社 平成26年

『恐怖の谷』延原謙 訳 新潮社 平成29年

シャーロック・ホームズの冒険延原謙 訳 平成29年

『kotoba 2019年 夏号』集英社 2019年

引用

*1:フジテレビ シャーロック 公式サイト https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより

*2:J-CASTニュース 

月9「シャーロック」はBBCのリメイク?フジテレビに聞いてみた https://www.j-cast.com/2019/07/24363431.html

*3:フジテレビ シャーロック 公式サイト https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより

*4:『緋色の研究』延原謙 訳 新潮社 平成29年 p31より

*5:フジテレビ シャーロック 公式サイト https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより

*6:シャーロック・ホームズの思い出』延原謙 訳 新潮社 平成26年 p312より

*7:フジテレビ シャーロック 公式サイト https://www.fujitv.co.jp/sherlock/news/news_01.htmlより

*8:フジテレビ シャーロック 公式サイト https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより

*9:フジテレビ シャーロック 公式サイト https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより

*10:フジテレビ シャーロック 公式サイト https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより

*11:『緋色の研究』延原謙 訳 新潮社 平成29年 p52より

*12:フジテレビ シャーロック 公式サイト https://www.fujitv.co.jp/sherlock/introduction/index.htmlより

*13:フジテレビ シャーロック 公式サイト DEAN FUJIOKAさん、本作の主題歌『Shelly』を書き下ろし! https://www.fujitv.co.jp/sherlock/news/news_05.htmlより

*14:『恐怖の谷』延原謙 訳 新潮社 平成29年 p109より

*15:シャーロック・ホームズの冒険延原謙 訳 新潮社 平成29年 p7,8より

*16:『kotoba 2019年 夏号』アンソニーホロヴィッツ 私にとってのホームズ、そしてコナン・ドイル  集英社 p16より

*17:フジテレビ シャーロック 公式サイト DEAN FUJIOKAさん、本作の主題歌『Shelly』を書き下ろし! https://www.fujitv.co.jp/sherlock/news/news_05.htmlより

*18:フジテレビ シャーロック 公式サイト 個性派女優・山田真歩さんが月9初出演! 『あな番』に続き3クール連続でミステリー作品出演! https://www.fujitv.co.jp/sherlock/news/news_04.htmlより